未来から来たちゃぶ台星人外伝〜PEDAN〜

「お嬢、失くして見つける」

 

 純たちがヤプールを追って地球を離れた後、地上には謎の鉄塊が降り注いでいた。それはチェスのポーン

の如く大量の兵士となって地上を破壊し始めた。まるで何者かの意志によって様子見するように、壊しては

周囲を三つのレンズで索敵し、また壊していた。人々は我先にと逃げ惑い、街は一秒ごとに廃墟へと近づい

ていく。そんな時、天空を緑色の閃光が覆った。その中から赤・白・黄、三つの影が飛び出す。どうやら

それは戦闘機のようだった。

 

「やれやれ、時空を放り出されたと思ったらずいぶんと礼儀知らずな客がきてるじゃないか」

「今度はどこのどいつだ?地球を征服しようってのは!」

「地球の外に母艦らしい影は無ぇ、コイツらだけみたいだぜ」

 

 上から白・赤・黄の機体のパイロットである。彼らはコクピットでにやりと笑い、仲間と叫ぶ。

 

「「「目に物見せてやるぜ、侵略者ども!!」」」

「俺から行くぜ。チェンジゲッター2、スイッチオン!」

 

鉄の兵士たちの足元をからかうように抜き去りながら上昇する三機。白い機体を頂点に、黄色い機体、赤い

機体と続く。それらの距離が零になった、その瞬間。

 

「見せてやるぜ、0・01秒以下の世界をな!」

 

鋭角的な白い巨人がそこに存在していた。右手に巨大な螺旋を携え、それは地上に降り立つ。と同時に鉄の

兵士が殺到するが…そこに白い巨人は存在していなかった。辺りを見回す鉄の兵士だが、捕捉できずにいる

ようで見回し続ける。

 

            ピュン、ピュンピュンッ!ギャリンッ!

 

 不気味に響く音に気付いたのは、いつだったか。それに振り向いた鉄の兵士の上半身が、一瞬の間に半分

削れていた。その直線上にいた兵士たちも全て多かれ少なかれ鉄の体が削り取られている。そして彼らは

思い出したかのようにバランスを失い、その場に倒れ伏す。

 

「数を揃えただけか。脆い奴らだっ!」

 

 人の目に映らぬ速度で戦っている白い巨人の中で吐き捨てるパイロット。だが鉄の兵士たちを侮っていた

目は、驚愕に見開かれた。

 

            ウジュジュジュジュ、ギャキィン!

 

なんと、鉄の兵士たちの失われた箇所がトカゲの尻尾のように再生したのだ。

 

―同時刻―

 

 その戦いを見つめる冷たい眼差しがあった。手にはお箸とご飯の盛られたお茶碗。髪の毛は肩口で切り

揃えられ、眼鏡をかけた少女。上下ともに小豆色のジャージを着用しており、苦学生のような外見である。

彼女の背後には瓦礫と化したアパートと思われる建物。無言でお箸を握りしめ、それを折った少女は耳に

片手をあて、誰とも無く呟く。

 

「本部。地球侵略における他勢力からの障害を確認。武装の転送を要請します」

〔了解、ヒューマノイド型キングジョーUJ−ゼロの戦闘を許可。早急に排除せよ。健闘を祈る〕

 

謎の電子音声が彼女の耳に届いたあと、彼女の服は一片していた。側頭部には巨大なタンクのようなもの。

額にはアンテナの出た額当。両腕の上腕からは長手袋。鎖骨の下あたりからは腰にタンクのようなものが

付いたドレス。そのどれもが黄金色に輝いていた。さらに首元には地球上では核廃棄物に付けられるマーク

によく似た模様の付いた円盤。ドレスの胸に当たる部分には額当と連動して発光する不思議な装甲板。

 それらを装備した少女は無表情に溜息一つ、巨人と鉄の兵士の戦場へと駆け出していった。

 

―戦場―

 

 地面の下から天へと、鉄の兵士を貫きながら上昇する白い巨人。鉄の兵士たちは仲間がやられたのも気に

せず、空中の巨人へと火炎弾を連射する。あわや命中かと思われたが、パイロットたちは余裕の態度を

崩さずにいた。

 

「「「オープン・ゲット!」」」

「チェンジゲッター3、スイッチオン!」

 

巨人は火炎弾が命中する直前、自ら飛び散ったように見えた。もとの三機に戻って火炎弾を避け、地上に

向かいながら黄・赤・白の順に合体する。今度はいかにも重量のある、人の上半身に戦車の下半身を持つ

黄色の巨人があらわれた。下半身の後部からミサイルを滅多撃ちにする黄の巨人。鉄の兵士たちは見る見る

うちに爆煙に包まれて崩れ落ちてゆく。だがパイロットたちは油断せず辺りに気を配る。

 

「まだ、やったとは言い切れねぇな」

「ああ。もしかすると全身まとめてかき消さねぇと消えねぇかもな」

 

 そんな会話をしていると背後から一体の兵士が襲いかかる。それを迎撃しようとした、巨人の目の前で

 

                ゴガッシャァア!

 

などという擬音と共に一人の少女が鉄の兵士を殴り倒した。そのまま瓦礫の中を滑走し、ビルだったものに

激突した兵士は取り憑いていた何かが消え去ったかの如く、糸の切れた人形のように動かなくなった。

 

「噂のインペライザーというのも、大した事ないわね。地球を手に入れるのはヤプールではなく……

 我らペダンと決まっているのだわ」

「……何だテメェは」

「今は仲間と思って差し支えないのだわ。この大量生産品どもが貴方達とわらわ、共通の敵だから」

 

 その言葉と共に、次の鉄の兵士−インペライザー−に向かう少女。呆気に取られる巨人のパイロットたち

だがすぐに気を取り直し、なぜ少女の一撃でインペライザーが動けなくなったかを戦いながら分析する。

 

「…そうか、あの服みたいな装甲には対精神生命体用のエネルギーまで備わってるのか!」

「なるほど、幽霊退治ってわけか。ゲッター1で行くぜ!」

「おう!」

 

 空中に何体ものインペライザーを放り投げ、分離して追い越す。赤・白・黄の順に並び、合体したそれを

見て、少女は訝しげな目をする。

「ウルトラセブン…いえ、悪魔なの?」

「ゲッタァアアア、ウイーーングッ!」

 

そのカラーリングは、かつて少女の同族を地球人と共に屠った赤い巨人を思い起こさせた。しかし、いま

自分が見ている巨人は絶対にそれとは違う部分がある。黒い悪魔のような翼を羽撃たかせているのだから。

赤い悪魔のような巨人は、肩から何かとてつもなく長いものを引き抜いた。その先端にはギロチンよりも

巨大な刃がシンメトリックに付いている。空中に浮いてもがいているインペライザーたちに対して、それは

容赦無く振り下ろされた。そしてすれ違いざまにぶつ切りにされた彼らの方を向いてもう一撃。

 

「ゲッタァアアア・トマホゥゥウク!…コイツでとどめだ、ゲッタァアアアア・ビィイイイイム!!」

 

 巨人の腹部から赤色の閃光が放たれ、インペライザーたちに降り注ぐ。すると、もがいていた

インペライザーたちが一斉に動きを止め地上に残骸として降り注いだ。

 

「へっ、インベーダーやら何やらにも効いたんだ。幽霊退治にも使えると思ったぜ」

「だがあのお嬢ちゃん、何者だ?わけのわからんパワードスーツ一つでコイツらと渡り合ってるぜ」

 

 突破口を見つけた敵を慣性の法則を無視した空中機動でさばきながら話し合う三人のパイロット。

一方、拳と頭部から放つ光線で敵を戦闘不能にしてゆく少女。数十分後には、インペライザーたちが大量の

ビルの瓦礫と同化するように破壊され尽くしていた。

 

「旧式のわらわにも勝てないなんて…所詮欠陥品のジャンクなのだわ」

「これで終わりか?まぁいいけどよ、地球の危機を救えたならな」

 

 焦げ付いたインペライザーの残骸を背に、一人どこかへと歩いてゆく少女。それを横目に見つつ、赤い

巨人は再び天空を覆った緑色の光に包まれ、消え去った。少女は耳に片手を当てて報告するように呟く。

 

「現時刻をもって敵勢力の沈黙を確認、戦闘を終了。なお、正体不明の勢力が出現。敵勢力に対して無意味

 な攻撃をしかけていたため、共同戦線を提案。こちらの助勢とする事に成功。また、戦闘終了後は消失。

 追跡も不可能なため断念。地球上のテクノロジーにしてはオーバーテクノロジーと認識。追加調査の必要

 を問う」

〔了解。地球上での調査は不要、こちらで処理する。武装をメンテナンスのため回収、通常任務に戻れ〕

「了解。我らペダンに栄光あれ」

 

 そんな会話のあと、小豆色のジャージ姿に戻る少女。自分が住んでいた所に帰ってみると、そこはすでに

瓦礫。一応、戻ってきた街の人々が復興を始めているが何日もかかりそうだ。少女は時計を見て急に

ソワソワし始め、辺りを見回す。

 

「ま、まずいのだわ。今日の名探偵くんくん&ドロシーが始まってしまうのだわ。どこか無事な家は…」

 

 どうやら、TV番組の心配をしているようだ。走り出し、当ても無くTVが無事な家を探し回る少女。

そして、何故か全面的に無事なアパートの一室を発見する。表札をチラッと見ると、「早田」と

書いてある。

 

「ごめんなさいなのだわ、顔も知らない早田さん」

 

言いながらすでにズカズカと土足で上がっている少女。無表情に焦り、血眼でTVとリモコンを探す。

すぐに見つかったリモコンを手に取りTVに向けて電源ボタンを押し、映像が映される前にチャンネルを

変えると軽やかな音楽が聞こえてきた。少女はホッとしたように表情を和らげ、うっとりとTVを見るの

だった。

                                         続く?

inserted by FC2 system